斜面地を逆手に地下住戸を生み出す

 斜面地ではまた、その地形を逆手に取って、通常以上の床面積を確保し収益性を高めることも可能です。ここには、建築法規を代表する建築基準法の規制緩和が関係しています。それは、住宅地下室の容積率不算入というものです。1994年改正で建築基準法に盛り込まれたもので、住宅用途の地下室部分は建物全体の床面積の3分の1を限度に容積率の算定上、床面積から除外するというものです。少し詳しく説明しましょう。

建築

 仮に敷地面積100㎡の土地があるとします。一帯の容積率を200%とすれば、ここには延べ床面積200㎡の住宅しか建ちません。ところが、この規定が新しく加わったため、地下に100㎡の居室を設けることができるようになったのです。もともとの200㎡に100㎡を合わせて延べ床面積は300㎡地下室は100㎡ですから、その3分の1内に収まっています。ここで注意したいのは、地下とは何かという点です。通常、地下と聞くと、文字通り、地面より下の空間と考えます。それはそうなのですが、建築基準法上は実はそれだけに留まりません。一般には地上にしか見えない部分まで地下に含まれることがあります。それを説明するには、地盤面と呼ばれるものをまず説明しておく必要があります。地盤面とは建築基準法で地面とみなす場所です。どこを地下と呼ぶかを見極めるときも、建物の高さを測るときも、この地盤面を基準にします。
 地下でいえば、それは天井面の高さが地盤面から高さ1m以下のものを指します。つまり、地盤面と同程度ではなく、そこから若干高い位置に天井があっても、天井高の3分の1以上が地盤面より低い部分は地下とみなされるのです。斜面地という地形を逆手に取れるのは、この地盤面を斜面地では何層にもわたって設定できるからです。

図面

 建築基準法では地盤面を、こう定義付けています。「建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面をいい、その接する位置の高低差が三メートルを超える場合においては、その高低差三メートル以内ごとの平均の高さにおける水平面をいう」。つまり斜面地であれば、下から3mごとに地盤面を設定することができます。斜面地である以上、どの場所でも周囲の地面と接することができるからです。そこで下から順に、この地盤面に対してはこの居室が地下とみなされるという解釈を繰り返していくと、多くのフロアが地下扱いになって、容積率算定上の床面積から除外されます。それだけ多くの床面積を確保できるようになるわけです。もちろん、そこに居住できなければ意味はありません。
 賃貸住宅を例に考えれば、住戸をいくらたくさん確保できても、そこを借りてくれる入居者が見つからなければ収益性のアップには結び付きません。建築基準法ではまた地下の居室に関して、衛生上必要な技術基準への適合を求めています。
 具体的には、(1)開口部が設けられていること、(2)換気設備が設置されていること、(3)湿度を調節する設備が設けられていることーなどが挙げられています。簡単に言えば、地上並みに採光・通風が確保されていることが求められるのです。斜面地なら、法解釈上の地下として扱えるフロアでも、まわりを土に囲まれているわけではありません。斜面地に建物を建てたとき、斜面側は確かに土に面しますが、その反対側は開放されています。採光・通風は十分に確保できるわけです。たとえ斜面側でも、そこを掘り込んだドライエリアを設置すれば、採光・通風は十分に確保できます。このドライエリアは、地下室を確保する建物の周囲に設ける空き地のような空間で、空掘りともいわれるものです。建物の外に確保されたその空間から、日差しや風を呼び込むことができるのです。

 ドライエリアとはただ、この規定を悪用し想定外のボリュームの分譲マンションを開発しようとする例が、近隣住民とのトラブルを頻発させました。2004年には建築基準法が改正され、先ほど紹介した基準法上の地盤面というものを、自治体は建築基準条例で区域を限って別に定めることができるようになりました。建築基準条例とは建築基準法に位置付けられ、基準法の規定以上の制限を加えることができる条例です。これを受けて、例えば横浜市ではもともと定めていた建築基準条例の一部を2005年に改正。地盤面を最も低い場所にある1層に限定する規定を置きました。地下にあることで容積率不算入の対象になる居室を、最下階のものだけに限ったのです。この条例改正によって、そのフロアより上の階の床面積は通常通り、容積率算定上の床面積に含まれるようになりました。想定外のボリュームが生まれることを、こうして防いだのです。
 常識の範囲ではしかし、地下室の容積率不算入はまだまだ利用可能です。眺望を生かす別荘地でもない限り、斜面地というものは一般に土地活用しにくいと思われがちですが、ここで見てきたように、斜面地であるがゆえのメリットもあるのです。度々改正もされ、一般には分かりにくい建築法規を駆使するのがポイントです。

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